第二話: sid 天諏佐一姫
天 鏡 楼
カンカンと音を立てて3階から2階へと、階段を下る。
自分がいた4階の教室からは此処まできても友人の奏でるBGMが聞こえた。
「さて・・と、どうしようかなぁ?」
今正面から外へ出ると、もれなく凶事と強制お見合いしそうな気配がヒシヒシとするのだが、
(さっきの感覚が間違いなけりゃ、坤の方角からでっかくって嫌な霊気がこっちくるし、
挙句になんだか門の前でちょろちょろしてるのもあるし、とはいっても・・・)
教室へ戻ると凶暴化したコディアックベアーに食われることになる。
かといって、今帰らないと間違いなく
腹をすかしたヒト科のジャガーに食われることになりそうで。
(・・坤ったら明らかに警察・・・つーか特犯?嫌だなぁ、捕まるのはご勘弁。)
ちなみに裏門近くの職員室には、
類別・ライオン種のヒトが火を噴きながらタバコを噛み潰している。
「うーん四面楚歌?」
のんきに首をかしげている場合でない。
そうこうしながら一姫は、降りてきた2階の階段の脇によしかかり、
左手を顎にかけてそれを右手で支えるように組む。
・・・このまま行くと坤からくるものと、門前にあるものとが鉢合のだ。
「覗き見くらいするべきよねぇ」
―――― 生憎そういうのを見ないという神経は一姫は持ち合わせていなかった。
それを考えて一姫は『にんまり』と、あきらかに他人が見たら
ヒソヒソうわさを立てそうな笑みを浮かべる。
――――― おかげで、漂う元生徒・教師たちは例に漏れずヒソヒソと。
それにはまったくもってかまわず、一姫はそのまま目を閉じる。
―――――― 闇の中、線を1本走らせた。
それは奥の扉へと括り結ばれ、更なる先へ。
夕の空色が脳の中に直接『視覚』となって開く、視神経と霊覚が繋がる。
「覗き見開始ー」
死ぬほど能天気に、一姫は頭を後ろの壁にコツリとつけた ―――
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
一姫は本物の〝目″をあける。
そこには先ほど〝目をつぶっていた〝時とは違い、
ただの閑々とした校内しか映っていないが、
明らかに一姫の瞳双眸は〝覗る〝前とは違い、凍てつき、切れ上がっていた。
(・・・幽体がどうして犬神なんかを使役してるわけ?いや、それよりも〝犬神がいた〝
ってことは、いざなぎ流の裏太夫が関わってる。把握してたよりも状況は最悪・・・
しかも勇者なんたらって事は『蜘蛛』も関わってるって事?)
一姫は自答した。
(考えるまでもなく関わってる――― しかも特犯の連中は十中八九それを追ってる。
てゆーか明らかにあのクソ幽霊、私へのメッセージだし・・・
ふーん、これ以上首突っ込んだら、頭から食いちぎって犬のクソにしてやるってこと?)
一姫は唇をかみ締めた。本来なら―――――― 体の良いアルバイトとしてこの世界に
関わるなら、それこそこれ以上足を踏み入れないほうがいい―――――
危険・危険じゃないは一姫とっては問題ではない。死線ならそれこそ
無理やり喉に押し込められた迷惑な代物のおかげで、露店で叩き売りするほど見てきた。
ただ、〝商売がやりずらくなる。〝いざなぎ流に目をつけられでもすれば――――
少なくともこの町では商売は出来なくなるだろう。
そんなことは分かっていた。いつものらりくらりと交わして来ていようとも、
そんなことは分かっている。
(それにあの媒介の携帯・・・私への当てつけか。
にしても、あの特犯の腕章つけた子――――― 私が覗いてたこと知ってたね。
こっちを見てた。まずい・・・・・すっごく最悪!!)
冷たい眼光から急変、一姫はテストで今期最低点とった学生の表情を作った。
「いざなぎ流に目をつけられようがなんにしようが、
どのみち、あの子が私が関わったって事知る前に証拠隠滅するっきゃないじゃない!
〝バイト〝なんて言ってらんない!最悪!!」
ずるずると床に座りながら、頭を抱えて一姫は声を跳ね上げた。
それほど大きな声なわけでもないが、
今の一姫にはやたらと耳についた。急に神経質になってしまったのかもしれない。
「とにかく・・・いまは帰るのが先決よね・・・・」
死ぬほどうんざりした声表情をオトモに、一姫はノロノロと足を動かした。
教師と友人と特犯。ドレが嫌って全部だが、どの道どれかには会ってしまうだろう。
それは嫌だと思いつつ、とりあえず一姫は靴を取るために正門へ向かわざる得なかった。
――――― どんなケンカの売られ方をしようとも一姫は買う気はキッパリと起きない。
逆に、どんなにくだらないケンカでも、買わざる得ないときもある。
・・・・自分の未来のタメに。
いざなぎ流とケンカをすれば商売が『やりにくくなる』が、特犯に見つかると、
やりにくくなるどころか下手したら壁の中かよくて強制労働、あげく監視がつくので
モロにイタチごっこである。
それならまだ力でカタを着けられる、
『いざなぎ流』にケンカ討ったほうがマシかもしれない・・・
と、うんざりというお友達に手を引かれながら一姫は考えた。
ケンカを売られたことについてはまったくなんとも思ってはいないのに、
(むしろ関わりたくないから、忠告素直に受け入れたいのに!!!)
―――――― まったくもって世の中理不尽である。
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